クリーン・コール・テクノロジー

ガス化燃料電池複合発電用触媒の開発、ヘテロ元素のケミストリーの解明、高温ガス精製法の構築、劣質・未利用炭素資源コークス化技術の確立

 経済産業省は、CO2 の排出量が多い老朽化した石炭火力を 2030 年度までに段階的に休廃止する一方、環境性能の優れた石炭火力の新設は認める方針を示した(2020 年 7 月 3 日)。石炭ガス化と燃料電池を組み合わせたガス化燃料電池複合発電(IGFC)技術は、高い発電効率を実現できることから、現行法と比較し CO2 排出量を 30% 以上削減可能な次世代型発電技術として非常に有望である。そこで当研究室では、 IGFC 用高活性ガス化触媒の開発、生成する燃料ガス(主成分は H2 と CO)中に微量に含まれるヘテロ化合物(HCl、H2S、NH3 等)の挙動解析と高温ガスクリーンアップ法の確立に取り組んでいる(特開 2005-162988、特開 2015-024400)。また、有機資源化学や計算機化学に基づき、劣質・未利用炭素資源から高強度コークスを製造する手法の開発も行っている。

 

Naカチオンをドープした低品位炭の
静電ポテンシャルマップ

石炭のコークス化挙動(左は原炭、右は軟化溶融成分を添加した石炭)

環境調和型製鉄プロセス

低品位鉄鉱石アップグレーディング技術の開発、化学気相浸透法を用いる炭素内装鉱石の製造、水銀化合物の発生挙動の解明と排出制御法の確立、アンモニア還元製鉄プロセスの開発、製鋼スラグ中のリンの選択的分離回収技術の構築

 

 よく知られているように、鉄は現代文明社会を支える 1 つの重要な基幹素材である。現在、その主たる原料である鉄鉱石は 100% 輸入に依存しており(90% 前後は豪州とブラジル)、今後、不純物の増加により鉄含有量が低下(劣質化)すると予想されている。これは、製鉄プロセスにおけるエネルギー使用量の増加、CO2 排出量の増大ならびに生産性の低下を引き起こす。そこで当研究室では、アルカリ処理を用いる低品位鉄鉱石アップグレーディングプロセスの開発(NEDO プロジェクト)や化学気相浸透法を用いる炭素内装鉱石の製造(NEDO プロジェクト、特開 2017-193742)に取り組むとともに、製鉄に係る水銀化合物の排出制御法・NH3 還元製鉄法・製鋼スラグからのリンの選択的回収法の開発などを推し進めている。

 

化学気相浸透法で製造した炭素内装鉱石の元素マッピング

カーボンリサイクル

炭素循環型発電システムの開発、量子化学計算を用いた CO2 転換触媒の設計

 

 本研究では、「資源・エネルギー・環境」の 3 問題を同時に解決することを最大の目的に掲げ、バイオマスなどの劣質・未利用炭素資源を原料とし、エネルギー効率が高く、かつ、CO2 も資源と捉え、これを分離・回収して工業ならびに触媒の原料として再利用できるカーボンリサイクル型発電システムの開発を目指している。本システムでは、バイオマスや低品位炭に水溶性金属カチオンを加え、セルフリプレイス効果により高いガス化反応性を有する燃料に転換し、これを溶融炭酸塩型燃料電池のセル内でガス化して、H2 と CO2 は電池内で循環させ、一方、余剰 CO2 は電極側で濃縮し、それを水酸化物に吸収させ固定化し、その固定化物を再び添加触媒や工業原料として用いる点に最大の特徴を有する。 また、我々は火力発電所や製鉄所といった大規模施設由来の CO2 に特化した CO2 転換触媒の設計・開発も進めている。

 

セルフリプレイス効果を用いたカーボンリサイクル型発電システムに関わる物流イメージ

水圏生産サイエンス

食用動物の鮮度と食べ頃の「見える化(MIRASAL)」装置の開発、ICTを利活用した食用動物の鮮度評価システムの開発と実装

 

 魚介類の生産地や消費地における卸売市場では、鮮度が取引価値を決定する 1 つの重要な基準となっており、その評価指標として K 値が提唱されている。しかし、この値は致死後の水産動物の任意部位をサンプリングし、種々の前処理後に成分分析を行って算出するため、流通現場でのリアルタイム評価は出来ない。このような観点から、当研究室では魚介類の大きさ、死後の経過時間や保存温度などの情報から、K値と食べ頃(IMP 値)を予測する評価システムの開発に取り組んでおり、この方法は畜産動物にも適用できる(国内出願、PCT 出願、台湾出願)。現在、産業技術総合研究所北海道センターや東京電機大学と共同で、MIRASAL 装置や ICT を利活用した鮮度評価システムの開発に取り組んでいる。また、鮮度保持用液状氷の質と量の同時最適化装置の開発も推し進めている(特願 2021-137125)。

 

MIRASAL を用いる鮮度管理システムの社会実装イメージ

JST 新技術説明会資料(2021.9.2)
(CACIKA は MIRASAL の旧名)